美苦尼・玄娘〜恥辱の西遊記 第57話

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「しかしにわかには信じられない感じがしますなあ。あなたのようにお美しい尼さんがはるばる、そんな遠い道のりを旅してこられたなど。道中いろいろ大変でしたでしょう」

「はい、妖魅妖怪の類など、珍しくもありません。しかし私には心強い弟子が二人もおりました故」

「とおっしゃいますと、お弟子さんがそれらの妖怪をみんなやっつけてしまわれたわけで」

玄娘は口元を隠し、澄ました表情で無言のまま肯く。
悟空はそれを見てすっかり陽気になり、思わず笑い出しそうになった。

「なるほど。しかし、それだけお美しいと、どうですか、その、山賊とかにも相当狙われたんでしょうなあ」
と言いながら玄娘の身体を眺める王の目付きは、その言葉に含まれる卑しい想念を露(あらわ)にして余りあるものだった。

「何しろ、あの連中は本当に野獣ですからな。親の目の前で娘を犯したり、亭主の目の前でその細君を犯したりするんです。しかも、十人がかりくらいでね。酷(ひど)いもんです。庵主様も、旅をして来られたのならそういうの、一度や二度見られた事があるんじゃないですか?」

野盗の事を罵(ののし)りながら、王はその野盗らと同じようなネトついた視線を玄娘の胸襟に彷徨(さまよ)わせる。

玄娘は恥ずかしさと嫌悪で言葉を継げる事が出来なかった。
以前の玄娘なら、気づく事すらなかったであろう。
烏巣禅師との事が脳裏を掠(かす)め、胸の内がざわついた。
だが何とか平静を装う。

「そんな事より、妖怪のお話を伺いたいのですが」

「はあ、こりゃどうも、失礼しました。ええ、そうなんです。いつ頃からか妖怪が出没するようになりましてねえ、ここら近辺の村はみな襲われ、男達も殺されてしまいました。今はもう、その村もありません。私は恥ずかしながら命乞いして、命ばかりは勘弁してもらったんですが、その代わり、昼間見られてしまったようなみっともない姿にされてしまったというわけなんです」

「そうかね。それにしても女侍(はべ)らかせて、羽振りが良すぎねえか。よぉ、お大尽」

「こ、この者達は妖怪達に襲われ、 連れ去られたのを私が命からがら助けだし、ここに匿っているのです。まあ、そうは申しましても男女の事ですから、彼女達から見れば私は命の恩人でもある事ですし、慕われてしまうのも無理からぬ事なれば、その気持ちに応える事こそ男子の本懐といえましょうなあ」

「ふーん。お嬢さん、失礼だが、あんたなんて名だね。それで、どうしてこんな所にいるんだね」

悟空が不意に、王の傍らにかしずいている娘に話を振った。

「え、私ですか。私は慧姑(けいこ)といいます。元はここから一山越えた所にあった凌慧寺という尼寺の尼僧でした。ある時突然妖怪に襲われ、黄風嶺に連れ去られたのを、主様に助けていただいたのです。念の為申し上げておきますが、主様は何一つ嘘など申されておりませんよ」

玄娘は慧姑と名乗るその娘の言葉で、悟空の質問の真意を初めて知り

「悟空さん、失敬ですよ!」

と声を厳しくした。
悟空は口を尖らして拗ねたような顔をするだけで、もちろん謝らない。

しかし玄娘はその顔を見て、ズキンと胸が高鳴り、一瞬何も言えなくなった。

キュ、キュートだ・・・

顔が綻びそうになるのを辛うじて堪えて、王の方に向き直る。

「し、失礼しました。ところで黄風嶺というのは?」

「はあ、ここから三十里ほど行った所に八百里黄風嶺という山があるのですが・・・おっと」

料理を並べた机の裏に、何かがコツンと当たり、王は言葉を切って傍らの慧姑を側に呼んだ。
ごそごそと何やら耳打ちする。
慧姑は黙って頷くと、机の下に潜り込んだ。

「や、どうも失礼しました」

「どうしたのですか?」

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