美苦尼・玄娘〜恥辱の西遊記 第58話
「いやなに、大した事ではありません。どうぞお気になさらず」
「あ!」
慧姑の後を目で追って机の下を覗き込んだ八戒が声を上げた。
悟空は机の下など見なくても、気配だけでその様子わかった。
ガタリと椅子を蹴転がし、テーブルを乗り越えようとする。
「いけねえ、兄貴!」
起き上がった八戒が悟空の腕に手を掛けて、王に殴り掛かろうとするのを押し留めた。
「ど、どうしたんです」
突然の事に、悟空の粗相を叱りつける事も忘れて玄娘はそう言った。
八戒が答える。
「お師匠様。こいつ、とんでもねえ奴ですぜ。お師匠様と話しているのに催して、女にしゃぶらせようとしてんです」
「言うな八戒!」
「しゃ、しゃぶる?・・・まさか」
頭に血が上る。
烏巣禅師のモノを咥えさせられた時の記憶が襲い掛かるように蘇った。
いい得ない嫌悪感とともにゾクリゾクリと怪しい感覚が背筋を這い登るのを感じる。
「ちょ、ちょっと待ってください」
王は両手を広げて懇願するように
「どうしようもなかったんですよお。こんな綺麗な尼さんを目の前にしちゃ、我慢しようったって、そりゃ無理ってもんです。身体の方が言う事を聞いてくれません。貴方がたのような修行を積んだ偉いお坊さんのようにはいかないんですよ。だからせめて粗相のないようにこっそり慰めようと」
そう言って弁明している間にも、机の下では一尺ほどにもなった逞しい男根を、慧姑がその舌でペロペロと慰めていた。
舌にその逞しさを味わい、唾液を満遍なく塗(まぶ)しては、大事そうに両手を添えて可憐な紅唇に亀頭を含む。
チュパチュパという卑猥な音が漏れて、殺気立ったその場に妙な空気が混入した。
「ふん、そうかい。それじゃ俺がもう二度とそんな面倒な事しなくても、粗相しないですむようにきっちり始末つけてやるぜ」
「ご、悟空さん。乱暴はダメです。私の事だったら・・・大丈夫ですから」
「でも」
「この方はこの方なりに、気を使って下さっているのです。おそらく・・・世俗の方を私共と同じに考えるのは酷なのかも、知れません」
そう言いながらも玄娘は、あまりの羞恥に身体がブルブルと振るえてくるのを抑え切れなかった。
ぴちゅぴちゅと濡れた音がそんな玄娘に追い打ちを掛ける。玄娘の恥ずかしい神経をチクチクと突付く。
「とにかく、お師匠様はちょっと外に出ていてください。話は俺と八戒で聞いときますから」
「いえ、私も聞きます。本当に大丈夫ですから。さあ二人とも座って。それで王さん、黄風嶺がどうしたんでしょう」
真っ赤な顔のまま少し怒ったような口調で言う。
「はあ、どうも申しわけない事で。で、その山なんですが、そこに妖怪達の住んでる洞窟があるんです。私が助けたのは十名ばかりだったんですが、まだまだたくさんの尼さんが監禁されていて、連日連夜妖怪どもに犯されているようなわけで」
妄想を掻き立てるいやらしい音に必死で抵抗している所で、今度は「犯される」という禁忌のキーワードに突然触れさせられ、玄娘は激しく動揺した。
夕方に見せられた化け物のようなモノと烏巣禅師の男根を口に含ませられた時の記憶がもの凄いスピードで交差する。
その黄風嶺の妖怪に口を犯されるイメージが何度も立ち現れ立ち現れ、ちゃんと物が考える事が出来ない。
悟空が椅子の背凭れに背中を凭せ掛けて言った。
「ははあ、それはアレだな。そいつら、尼さんを孕ませてそのガキを食おうってんだな」
「おいおい兄貴、そりゃ不老不死の話かね。ありゃあ、ただの迷信だぜ?」
未練げに机の下の様子をチロチロと盗み見ていた八戒が顔を上げて言った。