美苦尼・玄娘〜恥辱の西遊記 第56話

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こんな長大な逸物を持った男と同じ屋根の下に寝泊りするのは何だか怖かったが、やはり困っている人を放っていくわけにはいかない。

「その前にこいつを何とかしてもらわないとな」

「ええ、ええ。もちろんちゃんと片付けてからお目見えさせていただますとも」

「今、こっちに近づいてるあいつらに片付けてもらうのかい、お大尽」

悟空がそう言ったので、玄娘は耳を澄ませた。
何も聞こえない。

「どなかたこちらに来られるのですか」

「ええ、しばらく前から話し声やら足音やらが聞こえてはいたんですけどね。おい八戒、お前もとうの昔に気付いてはいたんだろう」

「何だよう、兄貴。ワシは大人しくしているだろう。こっちに向かって来てるのまではわかんねえよ」

玄娘は八戒の言う意味がよくはわからなかったが、あえては聞かずに

「それでは、一晩ご厄介になるのですからその方にもご挨拶をしなければ。その方がこちらに来られるのをここでお待ちしましょう」

それからしばらくして、がやがやと華やいだざわめきが近づいてくるのが聞こえてきた。
それを聞いて玄娘も、ようやく先ほどの八戒の言葉に得心がいく。

なるほど、八戒さんの騒いでいないのがどうのとか言ってたのはこういう事か。

それは若い女性たちの声だった。

「あら、どなた?」

門から入ってきた十数人ばかりの女たちの内の一人が気がついて言うと、他の者も一斉に玄娘達の方を見た。
みな、田植えから帰ってきたという格好だ。
玄娘はペコリと頭を下げて

「初めてお目に掛かります。私は・・・」

言いかけた時、女達が悲鳴を上げて後退(あとずさ)った。

「きゃああ!お化けっ」

どうやら八戒を見たものらしい。
それはそうだろう。
普通に立っていたら、八戒が一番目に付いてしまう。

「これこれ、粗相するでない。この方はな・・・」

男は玄娘たちを紹介してから、女の一人に客人を部屋に案内するよう指示した。

「それからお前とお前とお前はワシと一緒に来い。
後はお持て成しの支度だ」

一緒に来いと言われた三人はパァーッと顔を輝かせ、頬を発情色に染めていそいそと男に従った。

「ひょー、一遍に三人かい、ご盛んな事で」

八戒が下品な言葉で派や囃子(はやし)立てると、男は

「お恥ずかしい事で」

と恥ずかしげもなく、どころか少々自慢げですらある表情を浮かべて切り返した。

玄娘は不快を眉間に露(あらわ)にして、早くも男の家に泊まると言った事を後悔し始めていた。

(そんな事だから妖怪なんかに魅入られるのだ、この馬鹿。)

風呂を貰ってさっぱりしてから通された部屋で待っていると、女達が入れ替わり立ち替わりして料理の皿を玄娘たちの前の机に並べていった。
田舎料理らしく、豪勢というほどのものではないが、量だけは相当のものだ。

しかしその中には生臭物が一切入っていなかった。
男の意外な気遣いに、玄娘は少し関心する。

その男が、茶を持たせた女を伴って現れたのは、玄娘と悟空が食事を終えて茶を啜(すす)っている時だった。
八戒はまだ食べている。

「先ほどは失礼しまして。華北の茶はいかがですかな」

股間の物はすっかり鳴りを潜(ひそ)めて衣服の下に納まっているようだ。

「お気遣い、ありがとうございます」

「申し遅れまして。私は王と言います」

「私は玄娘と申します。素姓は外でお話しました通りですが、あちらのまだ食事しているのが弟子の八戒で、こちらの少々気の短いのが私の弟子の、悟空といいます」

玄娘にしては珍しく、挑戦的な目付きで言った。

悟空はそれを面白げに眺める。
まるで「私に手を出したら弟子達が黙っていないわよ」とでも言いたげだ。

玄娘が自分を頼りにしていると感じて、悟空は嬉しい気持ちになる。

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