美苦尼・玄娘〜恥辱の西遊記 第97話

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その虎が、吠えるような大音声で呼ばわる様

「待てい!某(それがし)は余人ではないぞ。黄風大王の急先鋒だ。今は大王の酒肴の調達に、山を巡回しておる処よ。某(それがし)に撃ちかかるとはいい度胸だ。貴様ら、どこの和尚だ?」

「貴様、もしかしてそいつはワシに向かって言っとるのか?」と睨みをきかせて八戒。
「それなら貴様こそいい度胸だ。そこらの凡夫と一緒にするでないぞ。東土大唐は李氏世民帝が御妹、三蔵法師玄娘のお弟子様だ。聖旨を奉じて西方にお経を取りに行く途上、道を開ければよし、邪魔をするつもりならワシの馬鍬(まぐわ)が貴様の脳天に降ってくる事になるぞ」

虎先鋒はバカにされたと思ってカッとなり、飛び掛りざまに爪を立てた大きな腕を、真っ向からブンと撃ち振ってきた。
それを八戒、馬鍬をくるくる回し、右手左手に弾き飛ばして突き掛かる。

虎先鋒は辛うじてそれをかわし、その打撃の凄まじさに驚いたように飛び退(すさ)ると、クルリと踵(きびす)を返して山を降りる方に遁走し出した。

「待てこらぁっ」

悟空が八戒の頭上を飛び越してその後を追う。
八戒も負けじと、駆け出した。

三匹の妖怪は追いつ追われつ、転がり落ちるように坂道を駆け降る。たちまち麓近くにまで降りてきてしまった。
虎先鋒が地面をごろごろ転がり回って元の虎の姿に戻る。
降りかかる馬鍬の爪と、横一線に薙ぎ払われる如意棒が稲妻のように空気を切り裂くのを、命からがら掻い潜って、崖下に転がり落ちた。

見るとそこに、ちょうどいい按配の岩がある。
虎先鋒は虎の皮を、ズルリと自ら剥ぎ取った。
それをその岩に被せれば、見事に虎の仰臥した姿となる。
これぞ称して『金蝉脱穀(もぬけのから)の計』。

本体の虎先鋒自身は一陣の狂風に乗って、来た方向に引き返していった。

その途中、フと見ると、美しい尼僧が気絶して倒れている。

虎先鋒は
「ははン。これが玄娘か。なるほどこいつは大した上玉だ」
と心に呟き、フワリと降り立った。

一方、悟空たちは、虎妖怪を追い掛けて崖下に下り、崖の前に大きな虎が倒れてうつ伏せになっているのを見つけた。
悟空が如意棒を振り下ろし、八戒が馬鍬(まぐわ)を突き出す。
すると爆音と共にそれはこなごなに砕け、岩塊の本性を現して辺りに砂礫を飛ばした。悟空や八戒くらいのレベルになると、岩を叩き砕くのも、爆発を生じる力となってしまうのだ。いや、それはいいのだが・・・

「げっ、ヤバい。計られたぞ」

「何を計られたんだ?」

「こいつは『金蝉脱穀の計』て奴だ。奴は虎の皮を脱いでここに被せ、それで俺らの目を眩ませて逃げやがったのさ。お師匠様の様子が心配だ」

二人は───一匹と一頭は急いで引き返したが、もうそこには玄娘の姿はなかった。

「くっそー!何て事だ!!」

悟空が膝を落とし、雷のような大声で叫ぶ。

八戒は馬を引いてきて、ボロボロ涙を零しながら

「ああ、何ちゅー事だ。右に行ったらいいのか左に行ったらいいのかもわからないのに、こんな何の手掛かりもない所で、一体ワシらはどこに探しにいったらいいんだ?」

悟空はその声を聞くと、顔を上げた。

「バカ野郎、泣くんじゃねえ。泣くとよけいに気が挫けるぞ。どうせこの山の中に決まってるんだ。探しにいくぜ」

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