美苦尼・玄娘〜恥辱の西遊記 第96話

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「八戒、手前ぇ、それ以上よけいな事言うんだったら、バラして肉屋の店先に並べてくれるぞ」

「勘弁してくれよ、兄貴。そういうわけじゃないんだ。それだったら、そういう事に強いワシがお師匠様の番をすれば良かったかなと、そう思ったもんでさ」

「ばーか。お前にお師匠様の番なんかさせたら、よけい危ねえじゃねえか」

(へ。ワシに任せてみろ。天竺どころかお師匠様、きっちり極楽浄土にお連れしてくれるぞ)

八戒は腹の中でひっそりと笑った。

王がもう一晩泊まっていってはと強く勧めるのを振り切って、一人と一匹と二頭の一行は、朝食もそこそこに王の屋敷を出発した。

道は一面荒れ果てた田や畑の中を突っ切って、彼方には険阻な山が聳えたっている。
半日ほどの行程でその山に辿り着いた。

道の端は崖、折り重なる奇岩、木々が斜めに迫って風に唸り声を上げ、足早く飛び過ぎる雲が辺りを暗くしたり明るくしたりする。
なんとも不安を掻き立てる雰囲気であった。

玄娘は思わず馬の歩みを緩めさせ、八戒もきょろきょろ落ち着きをなくして周りを見回し出す。
悟空は平然を装いながら、ピリピリと神経を逆立てていた。

どこかで、びゅうっとつむじ風の起こる音がすると、玄娘が馬上でビクビクして手綱にしがみつき

「か、風ですね」

「ははは。お師匠様。ただの風じゃないですか。風は天の気、そんなのを怖がるなんてどうかしてますよ」

「しかし、この風はたちの悪い風です。天の気とは少し違いますよ」

「どうしてそんな事がわかるんです?」

「だってこの風は、ほら、見てごらんなさい。土を巻き上げて塵を降らせ、生き物がみな寄り付こうとしない」

と玄娘が言えば八戒も

「その通りだ、兄貴。ちょっくら避けて行こうじゃないか」

「ちっちっち。おぬしはすぐそれだ。風が強いからってそうそう避けてばかりいたら、埒があきゃしねえ」

「それじゃあ兄貴は、これがそこらの風と同じ、普通のつむじ風と思うのかい?」

「別にそうとは言ってねえだろう。そんなに言うなら、どれ、みどもが一つ風を掴んで嗅いでやろう」

「なんだい兄貴はそんな法螺吹いて。風を掴むなんて聞いた事もない。例え掴めたところですぐにすり抜けちまうぜ」

「黙ってろって」

悟空はそう言うと、突風をするりとすり抜け、その尻尾を掴み寄せてクンクンと臭いを嗅いだ。

「なるほど。こいつはずいぶん生臭い。虎とか鹿の風の味じゃねえな。これは妖怪の風だ」

言うか言いも終わらぬ内に、坂の下から、獰猛な勢いで虎が飛び出してきた。
魂消た白馬が前足を蹴立て、玄娘も驚いて手綱を放す。
したものだから、そのままもんどり打って落馬してしまった。

運良く草の上で、崖にも落ちずに助かったが、妖怪の風だ、と聞かされてていきなり虎が飛び出てきたものだから、その驚きもあって、玄娘はそのまま気を失ってしまった。

八戒が荷物を振り捨て馬鍬(まぐわ)を構え、悟空が如意棒を振り回して撃ち掛かる。

「手前ぇ、何者だ!」

虎はあわやの間隔でその攻撃をかわし、くるりと回って二本足で立ち上がった。
もちろん、悟空にしてみたら、わざと手加減してやったのだ。
殺してしまうより、生かして喋らせた方が、この場合は得策だ。
そんな事もわからぬと、その虎は得意げな顔で肩をいからし、胸を張った。
すると、虎の毛皮が、虎の毛皮を模した鎧となった。

まるで今まで虎の毛皮と見えていたのが、目の錯覚だったかと思うような変容だった。

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