美苦尼・玄娘〜恥辱の西遊記 第59話

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「そんな事はわかってるよ。だがここいらを荒らし回ってるってぇその妖怪、どうやらよっぽどの田舎仙人みたいだな」

玄娘は二人の話している事がわからず、それを尋ねようとして口の中がカパカパに乾いている事に気づいた。
ごくりと空気を飲み込む。

「な、なんの事です?」

声が掠(かす)れて震えた。

「なに、ただの迷信です。俺たち妖仙の間で出回っていた、下らない噂話みたいなもんです」

「それも、大体天界にも上る事も出来ないような下仙が言ってる事なんですがね、徳の高い尼さんを孕まして、産まれたその赤ん坊を食べると道が成って不老不死になるってんですよ。誰が言い出したんだか、全く地べたを這いずり回っている奴らの考える事ときたら」

「おい八戒!余計な事を言うな」

「な、なんだよお。兄貴が言い出した事じゃねえか」

「そんな話が・・・」

玄娘は言葉を失った。
もしそれが本当なら、いや、本当ではなくとも、そんな話が妖怪たちの間で信じられているというのなら、玄娘こそは絶好のターゲットとなろう。
玄娘は世界中の妖怪が自分の身体を狙っているというのを思い描いて、鳥肌立った。

「でもどうして比丘尼なら、その・・・そんな赤ちゃんが生まれると?」

「徳の高い尼さんの胎内ならよく気が練られているだろうから、そこで育てられた赤ん坊ならそのくらいの力があるんじゃないか。てまあ、その程度の根拠の話です。修行を積むのが嫌になって道を諦めた仙人崩れどもが」

「んくっ」

その時突然、机の下で慧姑の小さなうめき声が聞こえた。
話が中断され、その場にいる全員の注意がそちらに引き寄せられる。
ごくりごくりと喉の鳴らして何かを飲む音がその後に続いた。

それは玄娘の想像を越えた愛し方だった。
禅師に咥えさせられた事はある。
そのずっと前には、帝が姫たちと番(つが)うのを見させられ、その狭間から白い迸りが零垂(こぼた)れるのを見た事もあった。

だが、それを飲むなどという事は・・・。

玄娘は全身が更にカッと熱くなるのを感じた。

やがて慧姑がゴソゴソと這い出てくる。
玄娘と同じくらい顔を真っ赤にして、手拭いで口元を拭(ぬぐ)う仕草も生々しい。

「実はここにいる慧姑も妖怪に処女を奪われた口でしてねぇ」
と王が言うと、慧姑は恥ずかしそうな表情を浮かべて、ぎこちなく微笑み
「はい・・・」
と従順に頷いた。
すごく恥ずかしそうなのだが、それを堪えてムリに顔を上げている、という風だ。
だがそれが、少しも嫌そうではない。

「うへぇ、そいつは本当ですかい」
と八戒が話に乗ってきて、王が
「あれはぁー、何の妖怪だったかなあ」
と問えば慧姑

「はい。あれは確か、と、虎の妖怪だったと思います。お寺自体が襲われたので、私だけではなかったのですが、逃げ惑う暇もなく・・・ほ、本堂で」

慧姑は明らかに劣情を催した様子の濡れた瞳で、八戒の方を真っ直ぐ見つめて話し出した。
慧姑が口を開くと淫らな栗の花の香りが漂い出る。

玄娘は耐え切れなくなり
「八戒さん、失礼ではありませんか。慧姑さん、弟子が無神経な事を申し、失礼しました。もうそのお話は結構ですので」

「あの、私は別に」

「なーに、庵主様、お気遣いにはお呼びませんよ。慧姑はこうやって恥ずかしい事を言わせられたりさせられるのが大好きなんです」

「いえ、もう本当に」

「ほーら、ここのご主人だってこう言っておられるのに、人の話を止めるなんて野暮ってもんですぜ」

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